追試の駄文置き場

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嘘日記2:私はこんなところにいる人間じゃない

今日は早く帰ろうかなと思ったけれど、同僚のみんなとなんとなく酒を飲む流れになってハイボールをちびちび飲んだ。

 

3杯目くらいで酔いが回ってきたころ、オフィスの窓から視線を感じたので振り返ると大きななめくじが窓の外からこちらをじっと見つめていた。

 

「見つめていた」と書いたけれどなめくじには目がない。けれどおそらくはこっちを認識しているのだろうという雰囲気がする。オフィスは4階にあるのでわざわざぬめぬめと壁を登ってきたのだろうか。

 

雨が降ったり止んだりする日だった。同僚たちはなめくじに気づかないで、仕事の悩みについて語っていた。

「私はこんなところにいる人間じゃない」と女の同僚の一人が言った。「私はさっさとこのプロジェクトで結果を出して、その成果でもっといい企業に転職するの」

僕は彼女の発言を咎めるべきかと思ったけれど、彼女がいないとこのプロジェクトは回らないため、何を言えばいいのかわからなかった。彼女自身も、そういう立場にいることを自覚しているのだ。

「あーあ、退屈。この意味のない時間がスキップできればいいのに」と彼女は言う。僕は何も言わないでちびちびとハイボールを飲み続けた。

 

なめくじは僕たちのことを憎んでいるんだ、と僕は気づく。